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暇でみ々草
なんとなく薄味
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暇だったから短編でも書いてみることにしました。
ちなみに推敲していないから読みづらいかもしれませんが
そんなのかんけいねぇ

………………
…………
……


 帰省しようと思い立ったその日に、都合がいいように彼女から連絡が来た。
用件は二つ。僕と同じ時期に帰省するのなら二人で帰省したいということ。
そしてそのときにある賭けにのって欲しいとのことだった。

前者はどうでもいい。どうせ帰省するまでのつきあいなのだから。
そして後者についてはもっとどうでもよかった。

電車に乗って住んでいた町から離れていく。何時もとは違う電車の使い方。
何時もとは違う方向。少しだけ胸がうずく僕の隣で、
彼女は麦藁帽子を膝元で回しながら鼻歌を歌っていた。

「一年ぶりぐらいの帰郷?」
「まあね」
「高校の寮に住んでから帰ったことある?」
「ないよ。」
「私も帰っていたのは昔だけだな。今はあまり」

へぇという僕の気のない相槌を受けて彼女はまた語りだす。
にこにことした笑みが作り過ぎていてあいかわらず不気味だ。
態度から白々しさが如実に現れている。

「高校生活どう?一年たったけど」
「期待していたどおり」
「そうなの?」
「素晴らしい生活だった。例えるなら、傷がついたCDを
再生するといつまでも同じ曲が流れて終わらないみたいな」
「へぇ」

電車の天井につけられている扇風機が首を揺らしている。
前髪がたまに額をひっかいて時折くすぐったい。
彼女のノースリーブの白いワンピースも風に揺られて僅かに膨らんでいる。

僕の顔を見ながら彼女は笑ったまま硬直していた。
無理に話そうとするのだからぎくしゃくするのだろう。
ワンピースの裾を掴んでいるのにも気づいていないのだろうか?

彼女があたふたする姿はこちらのいたずら心を刺激させる。しかし褒められない欲求に僕は蓋をした。
こういうのも全部僕の八つ当たりなんだろうと何度も自分に言い聞かせる。
そういう彼女の習性を僕は久しぶりに感じたが、その懐かしさが僕の中では重たかった。

「詳しく聞きたい?僕という人間でも積もる話もあるぜ。お前にはまだ話していなかっただろうし」
「いや。やめとく」
「そうか?」
「あはは」

「……」
「それにしても大荷物ね。必要以上に持って帰ってない?」
「まぁね」
「あはは……」

糸が切れるように会話が途切れる。気まずい沈黙を解く術を僕も彼女も知らなくて、
見てみぬふりしかなかった。僕の記憶が確かなら彼女も口下手の部類に当たる。
ここまで会話が続いたのも奇跡に等しいのだろう。

彼女もそういう自分を理解しているものの、僕のことが気にかかるのだろう。
こいつにしては頑張ったほうだ。僕は大きく息をつくと口を開いた。
両手で固めたこぶしをひざの上で一回叩く。

「そういえば賭けの話だけど」
「うん」
「僕が賭けに勝ったら僕の言うことを聞く。お前が賭けに勝ったら僕が言うことを聞く。それでいいな?」
「私はそれでいいよ」
「分かった。なら僕もかまわない」
「ねぇ?」
「何?」
「今更だけど賭けの選択はあれでよかったの?」

電車が止まって慣性にしたがって僕と彼女の体が揺れる。立ち上がる。
別の路線に乗換えだ。それのせいで彼女との話はうやむやになった。
足早にホームの階段を上がっていき、彼女の足音がそれに続く。


 鉄筋の建物が立ち並んでいる電車の窓の外が、電車を乗り換えていくたびに
だんだんと自然的な風景に変化していく。
一つ一つ駅を通り過ぎ、路線を変えて、電車を変えて。

外の風景がだんだんと自然的になるにつれて
僕の中で懐かしい匂いと、ある種の緊張がこみ上げてくる。

それを無視するように半ば無感覚で機械的に電車を乗り継いでいた。
彼女が後ろからついてきているということに何の反応も示さないまま。
彼女との会話にも機械的な受け答えしかしなかった。

電車に乗っている間は彼女はずっと話していた。
主にこの一年間の高校生活のこと。都心にあるというものの、
人の手が行き届いていない山の中にある学校について。

うっそうと茂った自然という雰囲気が付きまとうせいか
学校内にはさまざまなオカルトがあること。
寮はあまり人気がなくて、部屋の空きも多いということ。

彼女はいろいろと話し、僕はそれを右から左に流す。そうやって僕の彼女の帰省の旅は続いていく。
長いと思っていた電車の中も徐々に終わりが見えてきた。

木の柱のような電柱と、無造作に区切ってある田園、
そしてその向こうには緩やかな曲線を描いている山の輪郭がいくつも続いている。
変わっていないのは空の均一でない青さと雲の質感。後は地面に落ちる影の濃さぐらい。

緩やかな山の曲線を目で追っているうちに、
その作業がなんだかばかばかしくなって僕は眼鏡を外した。
にじむようにぼんやりと輪郭がおぼろげになる光景の目の前に彼女が座っている。

一両の車両の中に乗客は僕と彼女だけ。彼女は隅が好きだからという理由で
この車両に乗ると僕とは反対側の椅子に座った。
椅子の端に寄りかかり健やかな寝息を立てている。
微妙に変形している麦藁帽子に軽い同情を覚えた。

寝姿は安らかな顔のせいでやすらぎを覚えてしまうが、
その寝姿がいつまで続くのか気になって同時に不安定にもなる。
胸の中で彼女から受ける感情を持て余し、どうしようか考えていると電車が止まった。

二人同時に立ち上がる。電車を降りると駅員も同時に降りた。
ここが終点だから間違いない。改札を出て電車を見送る。
いつの間にか僕も彼女も無言になっていた。

僕らが今まで乗っていた電車は進む方向を変えず、まだ続いている路線を走る。

終点はこの駅で間違いない。しかし路線はまだ続いている。
車庫に続けばいいほどの長さではない。
まだ先が見えない路線は先があることを物語っている。そして故郷の最寄り駅はその先にある。

「いく?」

そう尋ねた僕をほぼ無視して彼女は路線と僕らを阻む柵の前に立つ。
彼女は躊躇いもせずに柵を乗り越える。
ワンピースが翻るのも気にせずに路線の上に立つとバランスを取るように路線を進んでいった。
彼女の跳躍によって飛んだ麦わら帽子を僕は掴むと彼女の後を追った。

………………
…………
……

続くよ。

 

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