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暇でみ々草
なんとなく薄味
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書くネタに困ったから部内誌に載せた
僕の文章でもおいとく。
気が向いたら自評でもするかも。

タイトルは『ペーペー』
ペーパードライバーをよくペーペーというけど
この言葉はそのような耳年増で現実を
誤解しているという意味合いが込められています。

という後付設定を考えました。
(以下本文)
 
 母親に引っ張られて僕が連れてこられたのは近所にある結婚式場だった。
突き刺さるほどの強烈な陽光が式場を照らしている。
  絶好の結婚日和だと周りで大人がはしゃいでいたその傍で、
僕は息苦しさがもたらす痛みを陽光の熱で焦がそうと必死になっていた。
 太陽を背にして立つ式場の姿からにじみ出る恐怖の影に体が竦む。
悲鳴のように鳴り響く鐘の音が深く突き刺さる。
まるで杭を打ち込まれているかのような感覚に僕は何も言えなかった。
 式場はこの町の小高い丘の上にちょこんと鎮座していて、
僕は毎日それをじめったい目つきで見上げていた。
僕が毎日を過ごす場所とは遠くかけ離れた場所にあるのに、
その建物が放つ異質な存在感は丘を駆け下り、僕の背中を常に追っていた。
 
「あんたもあそこで結婚するときが来るのよ」
 
 母は僕が式場の姿を見上げていることに気づくと、決まって誇らしげに、自分のように話す。
母の手は僕の頭をがむしゃらにかき回す。
その手の感触がぞわぞわと背筋を伝い、僕を縛っていくが僕は何も言わなかった。
 
 
 
 若者に距離を置かれているものとしていろいろ指折り数えることがあった。
 しかしいくつかは根も葉もない噂だったり、
いくつかはもう一度若者を取り込める魅力を漂わせ始めたりしていた。
 だからもう若者どもの無趣味について悲観的になるのは時代遅れだった。
けど一つだけそのイメージをなかなか払拭できないものがあったらしい。
 それが結婚である。男女比の崩壊により男子が
希少的価値を持ったためというのが僕が覚えている理由だ。
他にもいろいろと理由があり、それらが複雑に絡み合っていたらしい。
 しかしそれが問題視されていたのもすでには過去の話だった。僕が生まれるずっと前から、
全ての若者は結婚を経て大人になっていく。結婚を疎ましく思う者を、
僕が立つ世界の中では見たことがなく、今となっては誰もが結婚する時代ということになる。
 僕もいつかは結婚して子供という殻を投げ捨て大人になる。
そのときはこの式場で式を挙げるのだろう。 
 それを意識してまうと、魔物の雄叫びと聞き間違えるほどの鐘の音も
次第に滑らかに僕の耳に届く。
天使の歌声のように僕の下へ舞い降りるそれは僕に平静と安寧をもたらしていた。
そして高揚が僕の身を軽くさせていく。くらくらと眩暈に溺れ、酔いそうになっていた。
 
「あんたもあそこで結婚する時が来るのよ」
 
 僕の頭をすっぽりと隠す母の手の感触に僕は何も言えなかった。
僕が言いたいことと言うべきことを母が全て代弁する。
僕が式場を見上げると母親は胸をはる。僕の未来に対し、確かな言葉を母は紡ぐ。
 僕は何も言わなかった。僕だって結婚に憧れているから。
 
 
 
 きらびやかなステンドグラスを通る光が七色に輝き、
式場の床を色彩豊かに染め上げる。長椅子に僕は座っていた。
湧き上がる興奮を必死に抑え込んでいたが紅潮する頬までは隠しきれていなかった。
 式場の背後で蝶番のきしむ音がもったいぶるように響く。
開かれた扉から伸びる光の奔流の中に、二つの影が立っている。
言うまでもなく花婿とその親だ。パイプオルガンが奏でる旋律に混ざるように、
僕の背後から嘆息が漏れた。そのため息はさざ波のように広がる。
 式場全体が光の中に立つ二つの人影を羨むような空気に包まれることとなった。
僕もつられて彼らの姿に唇を噛み締めていた。
二人は光の中に立つというのにも関わらず目も眩むほどにまぶしい。
 祭壇の前には花嫁とその親が待っていた。花婿がゆっくりと歩く。
ここまでに至った過程を静かに思い出すように。
そして子供から脱皮して大人になって飛び、羽ばたくための助走をつけるように。
その後ろを花婿の親が付かず離れずついていく。
 パイプオルガンが歌い、その旋律が駆け抜け二人を祝福する。
花婿が進む方向へと伸びる光の列はしっかりと花嫁にまで届き、
誰も干渉できない空間と時間を作っていく。
 
「あんたもあそこで結婚する時が来るのよ」 
 
 母が僕にだけ聞こえるように囁くと僕は無意識的に頷いていた。
 僕を見て母はいつもは見ない自愛に満ちた笑みと共に、いつもらしく僕の頭に手を置く。
 そうだ。僕も結婚するときが来る。いつかなどという不確かな予測ではない。
それは絶対に訪れ、絶対に避けることはできない。
 結婚が可能かどうかの決定に、僕の意志は含まれていない。
結婚とは僕達が大人になるための通過儀礼であり、
国民にとって義務となっていることの一つである。そして結婚が義務となっていることに、
異議を申し立てる人間はどこにもいない。
大人になることでその義務をはるかに上回るメリットがあるのを知らない人はいないからだ。
 やがて花嫁と花婿が相対する。傍らに立つ神父が定型文を読み上げる。
 永遠の愛を誓いますか?誓うに決まっている。誰にしても誓うに決まっている。
そして二人は誓った。同時に誓い合うことで、絆の結びが固くなる。
感情が同調したことの二人の喜びが甘い匂いと共に周囲に広がっていく。
 そろそろだ。僕はそう思った。花婿と花嫁の前に花婿の親が立つ。
間違いない。そろそろだ。そして花婿の親は自分の腕を二人の間にそっと突き出した。
その手には鎖が握りしめられている。
その鎖は当然、花婿の首元に巻きつけられた首輪に繋がっていた。
 握られた手が開く。その鎖は滝が流れ落ちるような自然さと荘厳さを引き連れながら、手の中をすり抜けていく。パイプオルガンの壮大なリズムに決して混ざり会わない無骨な音がして、
鎖だまりが彼らの足元にできた。花婿につながれている鎖を掴む者はいない。
 
「あんたもあそこで結婚する時が来るのよ」
 
 母親がまた同じ言葉をつぶやく。僕にそれをゆっくりと刷り込ませていくように、
その手を頭に置く。動作がコマ送りのようになるが、その微動でも消せない音があたりに響く。
誰もそれに眉を潜めることはしなかったけど母は伏し目がちになり、まつ毛で瞳を隠した。
 じゃらじゃらと金属が擦れ会う音が母親の手から響く。
母の言伝を秘めているかのような細かな振動が僕の喉をゆらし、少しだけ息苦しくなった。
 でも僕は式の流れに夢中になると、その苦しみも溶けるようになくなっていく。
 花婿の親が持っていたそのリードの一端は床に落とされている。
僕は片時も目を離すことなく、それに釘付けになる。
男の子なら誰もが一度は夢見る光景だった。
花婿が結婚を通過し、母の手を抜け、一人の子供から大人になる瞬間だ。
 花婿も、その親も動かない。みなしてその鎖だまりを囲んでいる。
 ふいに純白のドレスに身を包んだ花嫁が動く。
目が眩むほどのそれの純白さはこれまで清潔に生きてきたことの証のよう。
 そのドレスから伸びる光を浴びた手が鎖だまりへと伸びていく。
 皆固唾を飲んで見守っていた。僕も当然見守っていた。
その手が鎖たまりに近づくにつれて、パイプオルガンが激しさを表し、
僕の息苦しさも加速していく。
 そして極自然に花嫁の手が鎖を掴み、そして立ち上がる。
花嫁が持つ鎖は地を這う蛇のような軌跡を描く。
歪な光沢を体に帯びて鳴き声かと間違えるほどの不協和音がその鎖から響いていた。
そして花嫁は鎖を持ち上げる。
 終わった。その映像が僕の目に焼き付き、結婚の一場面として記憶の一部になる。
その何気ない光景から、僕は次々と感情が溢れていた。
その濁流に飲み込まれていき、思考が麻痺したまま僕は頭で繰り返しそれを見ていた。
 何度も想像していたことが目の前で繰り広げられている。
親の手につながれていた鎖は、今は花嫁の手につながれている。
それが結婚して、大人になることの儀礼というなによりの証だった。
 花婿は今親の手から離れて大人になった。
決定的な成長を祝福するために、万雷の拍手を花婿と花嫁に浴びせる。
それが形容できない幸福感を届ける手段となる。
僕もそれに参加して、僕の母は僕にそっと耳打ちした。
 
「そしたらあんたも大人になるんだろうね。そうするとお母さんの右手もちょっと軽くなるよ」
 
 その言葉を僕は上の空で聞いていた。手だけはそれに反応して、
乾いた指先で僕の首輪をそっとなぞっていた。
ヒヤリとした冷たいさわり心地はそれが僕の一部という自覚はなく、
母にいつも引っ張られる感触が常に首に残っている。
 錯覚であるはずなのに、その痛みが僕の体に常に付きまとっている。
その痛みを自分では解決できず、毎日を自分の無力さに悩み、子供ということを呪った。
そして大人になってもこの痛みを癒すことができない。そのような恐れを抱くことも少なくなかった。
 だけど今日を見て確信した。この実在しない痛みを取り除く唯一の方法は結婚なのだと。
 僕も早く大人になりたい。親の手から離れたい。
この首輪の締め付けから解放されたい。だから僕は結婚に憧れていた。
 
(終わり)

しかしこれで約3600文字か。改行を増やすと結構な行が積もってしまうな
 
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